イエスタデイ

虚構の成功に縋ることが、果たして本当に幸せだろうか?

 

イエスタデイ (字幕版)

イエスタデイ (字幕版)

  • 発売日: 2020/04/08
  • メディア: Prime Video
 

 

エスタデイを鑑賞。原因不明の世界的大停電が起こり、その影響でビートルズの存在が世界から消えていることに気が付いた主人公ジャック。ミュージシャンを目指すも全くうだつが上がらない日々を過ごしていた彼は、ビートルズの歌を自分の歌だと偽り、スターになろうとする、というストーリー。

 

夢を抱いている人間なら、どんな手を使ってでも有名になりたいと思ったことはあるだろう。ジャックも、どうしても歌手として有名になりたいという思いを捨てきれなかった。ビートルズの歌を盗作することで夢を叶えつつも、毎日罪の意識に苛まれるようになる。

 

私は常々、人生で何かを手に入れるには、何かを犠牲にしなければならないと思っている。 全てを手に入れることはできない。仕事に命を懸けた代わりに、家族との時間を失う。富を手に入れた代わりに、信頼していた人との絆を失う。本作のジャックは、有名になる代わりに心の平静を失ったのだと思う。

 

上記を踏まえて、イエスタデイのすごいところは、そんなジャックを「許した」上で、彼自らが悔い改める点だと思う。

実は劇中、どういうわけかジャック以外にも、ビートルズのことを覚えていた人が二人登場する。彼らから見れば、ジャックがやっていることは完全に盗作でパクリでビートルズのコピーだ。当然、ファンだったら(ファンでなくとも)許せない気持ちになるだろう。告発してやろうという気持ちになるだろう。でも、彼らは怒らなかった。むしろ、「ありがとう」と言うのだ。ビートルズの音楽がない世界なんて退屈だ、この世界に彼らの曲を蘇らせてくれて、と。隠し事は暴かれてしまう映画が多い中、こういう展開になる映画は珍しい。

 

エスタデイは、怒りのような負のパワーではなく、許しのような陽のパワーこそが、人の行動を変えるということを伝えたかったのではないかな。

 

もしジャックが告発されたら、きっと盗作であることを認めるだろう。(そしてレコーディング会社はこれを隠蔽するだろう)しかし、それは外部からの力によって結果的に認めただけであって、彼自身の行動や思考が改まったわけではない。ビートルズのことを覚えてた二人が、ジャックに感謝をしたからこそ、ジャックは自分の間違いを改めて認め、人々にカミングアウトするに至ったのだ。有名にはなれなかったが、嘘をつくことをやめて心の平静を取り戻した。

 

ビートルズの音楽は世界に残り、ジャックは自分の人生を生き、みんなハッピーエンドで終わった(マネージャーは・・・わからんけど。)。

とてもやさしい映画でした。

 

あかり